こちらの記事では、2024年3月18日(月)に扇町ミュージアムキューブにて行われた、ネビュラエンタープライズ専務取締役の永滝陽子とコトリ会議の制作を担当する若旦那家康さんによる、『雨降りのヌエ』公演ゲストトークのアーカイブを、テーマごとにお届けします。
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【1】公演チラシと関わり続ける、ネビュラエンタープライズの20年
【2】コロナ禍でも、おちらしさん会員から聞こえてきた生の声
【3】創客にむけて。WEBで、チラシで、「話題」はどう仕掛けられるか?
【4】美術展のチラシからハッとすること(このページ)
【5】チラシ談義で「実際、このデザインどう!?」
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このトークイベントに観客として参加したネビュラエンタープライズ代表の緑川憲仁による記事は、以下からお読みください!
▶▶あえて公演期間中に、しかも劇場で語る、宣伝のことを。「演劇のチラシと広報」トークイベントからの考察
【第4回】美術展のチラシからハッとすること
ネビュラエンタープライズ・永滝陽子(以下、永滝):
チラシ宅配サービス「おちらしさん」をきっかけに、その年に劇場や美術館で配布されていたチラシの中から好きな1枚に投票する「おちらしさんアワード」というお祭りをやらせてもらっています。観客の皆さんにWEBで投票していただき、舞台版と美術版の各トップ10を発表しました。今日は舞台のチラシのお話をしていますが、あえて美術版からチラシをいくつかご紹介します。
・インパクトも繊細さも兼ね備えるデザインとは…!おちらしさんアワード2023~舞台版~結果発表|おちらしさんWEB
・目を惹く美しさの決め手って…!?おちらしさんアワード2023~美術版~結果発表|おちらしさんWEB
美術版で、これが2023年アワード第1位になったチラシです。広島の下瀬美術館で行われた、「開館記念展 おひなさまと近代美術 — 丸平の人形からガレ、マティスまで」。
左から、若旦那家康さん、永滝陽子
コトリ会議・若旦那家康(以下、若旦那):美術館ぽいチラシ!
左から、下瀬美術館 「開館記念展 おひなさまと近代美術 — 丸平の人形からガレ、マティスまで」チラシ表面
練馬区立美術館 「練馬区立美術館コレクション+ 植物と歩く」チラシ表面
永滝:そしてこちらは2位になった、東京の練馬区立美術館「練馬区立美術館コレクション+ 植物と歩く」のチラシです。どちらも大変好評でアワードでも盛り上がりました。それで今回、今日のような機会をいただいたので、あえて「演劇のチラシって何だろう」とずっと考えていたんですよ。演劇って、「見えないもの」を舞台化するじゃないですか?
若旦那:まだ、ないもの?
永滝:そう。舞台上に作品を通じて、テーマや伝えたいことを何もないところから、セリフや装置や音響照明でゼロから作り上げていきますよね。同様に、演劇のチラシも「こういう公演です」「こういう作品です」と示したいときに、ゼロからビジュアルを立ち上げる創造性が必要になる。一方で、美術展のチラシというのは、多くの場合が展示品をチラシにダイレクトに載せられるんですよね。具象的なものが、既にある状態でチラシは作られている。でも演劇のチラシは、具象的なものがまだないじゃないですか? 「見えないものを見える化させること」が舞台公演チラシの一つの宿命というか、命題というか……。
若旦那:多くの場合、公演を行うひと月ふた月前にはチラシが出来上がっていて、そのころに舞台上のものはまだないわけですからね。ここにある美術セットも、僕は劇場に来てから知りましたもん(笑)。
永滝:ところで、おちらしさんアワードで第5位にランクインした、もりおか歴史文化館の「罪と罰 -犯罪記録に見る江戸時代の盛岡-」という企画展があって。こちらは、盛岡に残る江戸時代の犯罪記録の展示です。
若旦那:企画がまずすごいですね。
永滝:このチラシを見たとき、とても演劇っぽいなと思ったんです。「罪と罰」ってタイトルも。うちの社長とこのチラシを見たときにそんな話で盛り上がりまして。
若旦那:ビジュアルがないですもん。写真みたいなね。
永滝:裏面に行くとちょっとあるんですけど、でもそういう展示物の写真で勝負しているんじゃなくて、「罪と罰」という何か形のない展示テーマから想起されるものを可視化したデザインなんだなと思って。美術展のチラシではあまり見かけないデザインで、このチラシが5位にランクインしたということは、美術展のチラシを普段見ている人たちからは、ちょっと物珍しい面白い1枚として受け止められたんだと思うんです。
もりおか歴史文化館 企画展「罪と罰 -犯罪記録に見る江戸時代の盛岡-」チラシ【表面】
もりおか歴史文化館 企画展「罪と罰 -犯罪記録に見る江戸時代の盛岡-」チラシ【裏面】
よく演劇のチラシで不評を買う時の例としては、上演時間が書いていないとか、どの劇場で上演されるのかわかりづらいとか、アクセシビリティ的なことの詳細がないとか、そういった部分は指摘されやすいですよね。情報の出し方一つで、チラシの評価にもつながる。例えば観劇環境をすごく大事にしている団体は、上演時間は必ず載せているとか、会場へのアクセスマップの見やすさなど、何をどうチラシに載せるかというこだわり一つとっても、その団体の個性ですよね。
若旦那:演劇に対して、面白いのにお前たちがしっかり宣伝しないから広がらないじゃないかと思ってくれているお客さんもいますからね。
永滝:そうですよね。でも演劇のチラシは「情報」という側面だけではなくて、創造性の部分で表面のデザインや全体から受ける印象、紙質一つとっても、ゼロからイチを表現する面白さ、難しさがあって。おちらしさんの美術版で取り扱うチラシを見ていると、私のようなずっと舞台のチラシを見てきた人間にとっても、チラシが持つ表現方法の多様さや、創造性と情報の載せ方の兼ね合いなど、ハッとすることがあるので、今回ここでもシェアできたらいいなと思ってご紹介しました。
左から、若旦那家康さん、永滝陽子
若旦那家康さん(プロフィール)
演劇制作者、俳優。コトリ会議に所属。ストレンジシード静岡プログラムディレクター。大阪市立芸術創造館スタッフ。
神戸大学在学中から小劇場での活動をはじめ、留年中に入団した上海太郎舞踏公司で制作を担当。
以降、地方公演の小劇場を中心に演劇祭などの制作をつとめる。
永滝陽子(プロフィール)
1976年生まれ、東京都出身。演劇集団キャラメルボックス製作部を経て2007年にNext(現・株式会社ネビュラエンタープライズ)に入社。2017年専務取締役就任。2020年に社名をネビュラエンタープライズに変更、企業理念「どこまでも、人が集う幸せを求めて。」のもと舞台芸術の振興にむけた事業推進に取り組む。主なサービスに「チラシ折り込み代行サービス」「おちらしさん」「WEB広告代行サービス」「時々海風が吹くスタジオ」の運営等。現在、中学生の姉妹の子育て中。