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【2】コロナ禍でも、
おちらしさん会員から聞こえてきた生の声

こちらの記事では、2024年3月18日(月)に扇町ミュージアムキューブにて行われた、ネビュラエンタープライズ専務取締役の永滝陽子とコトリ会議の制作を担当する若旦那家康さんによる、『雨降りのヌエ』公演ゲストトークのアーカイブを、テーマごとにお届けします。

 

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【1】公演チラシと関わり続ける、ネビュラエンタープライズの20年
【2】コロナ禍でも、おちらしさん会員から聞こえてきた生の声(このページ)

【3】創客にむけて。WEBで、チラシで、「話題」はどう仕掛けられるか?
【4】美術展のチラシからハッとすること
【5】チラシ談義で「実際、このデザインどう!?」

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このトークイベントに観客として参加したネビュラエンタープライズ代表の緑川憲仁による記事は、以下からお読みください!

▶▶あえて公演期間中に、しかも劇場で語る、宣伝のことを。「演劇のチラシと広報」トークイベントからの考察

 

 

【第2回】コロナ禍でも、おちらしさん会員から聞こえてきた生の声

 

ネビュラエンタープライズ・永滝陽子(以下、永滝):
2020年にスタートした、チラシ宅配サービスの「おちらしさん」。これが自分たちとしては、独自のアクションになったかなと思います。それまでは、公演団体ごとの手間をまとめて引き受けて、チラシの折り込みを代行することで業界に貢献するスタンスでした。舞台業界の中の需要として、手折り込みにかかる手間や時間が少しでも浮いたら、制作者さんはそこにかけていた時間を違うことに使っていただける。手折り込みのために人を集めて劇場へ行き、作業することはとても大変です。そういったことが少しでも解消できたらというのが出発点でした。

 

けれどコロナ禍で公演が止まり、劇場に集うことができなくなったら、チラシをお客様に配る場所が無い。チラシ宣伝の経路が絶たれるという問題は、公演規模の大小に関わらずどの団体にも起こりました。うちはそれを甘んじて受け入れるのというかという問題に直面したときに、「劇場で公演できなくなったからチラシも終わりなの?」「ネビュラエンタープライズとして何をするの?」と岐路に立たされた。そこで、「会社を存続していくとしたら、自分たちのアイデアでチラシをどういうふうに活用できるのか?」というところにやっと一歩踏み出せたのが、おちらしさんです。

 

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2020年にスタートした、チラシ宅配サービス「おちらしさん」

 

コトリ会議・若旦那家康(以下、若旦那):
「おちらしさん」はどんな風にサービスとして立ち上がっていったんですか?

 

永滝:じつはコロナ禍の前からも、直接お客様にチラシを届けたい、送ってみたいという話は社内であったと思います。それは会社の事業としてやりましょうというよりは、ちょっと夢想に近いというか、想像上の「いつかそういうことができたらいいよね」っていうような……。

 

若旦那:言い方があれですけれど、雑談レベルで、ご飯食べながら、そんなことがいつかできたら面白いよねっていう感じですよね。

 

永滝:まあそうですね(笑) でもまずは「会場でチラシを配布したい」という業界の需要にお応えすることが最優先だったので、自分たちがやってみたいおちらしさん的なものにまで手が回らなかったというのが正直なところです。しかし劇場が閉まったならば、もう本当にお客様にチラシをお渡しできるルートが断たれたわけですから、そうなったときにできること、配布先を一つでも確保したいという、割と現実的なところから「おちらしさん」はスタートしてます。

 

66139ae9-341166aa永滝陽子

 

最初は会員数が500人ぐらい集まったら始めようと言っていたんです。けれど、スタートして会員を募ったら、あっという間に1,000人近くの方と繋がることができました。スタッフ一同「もうこれしかないよね」と崖っぷちの状態で始めたサービスですから、こんなに長く続けていけるとは思っていなくて。1年とかそれぐらいで終わるものとして、時限的に始めたのが最初だったと思います。

 

若旦那:やめどきがわからなくなったり?

 

永滝:そもそも舞台の公演チラシを扱っていた会社なので、おちらしさんも「舞台のチラシをお届けします」と始めました。そのあと、チラシが欲しい方っていうのは、舞台芸術に関わらず、他のジャンルでもいらっしゃるかもしれないなと。始めていくうちに手応えもあり、新しいサービスとしておちらしさんの可能性を感じ出していたので、演劇以外の美術やクラシック、映画などのジャンルでもできるのではないかと考え始めて。その中で、美術館や展示のチラシが一番向いているのかもしれないと。実験的に、美術版のおちらしさんも始めました。でも、美術館さんとは、それまで直接のお取り引きはそんなに多くはなかったので……。

 

若旦那:おちらしさんに美術版があるというのを知って、「元々、美術展チラシの折り込みもやってたのかな?」と思っていたんですけど、そんなに無かったんですね。

 

永滝:あくまで舞台公演の会場で配りたい団体のチラシをお預かりするのが私たちの仕事なので、稀に美術関係の主催者の方から希望をいただいたときにお預かりする程度でしたね。「おちらしさん美術」のスタートは、社内のスタッフみんなで美術館やギャラリーさんに営業をかけて行きました。最初は通常より安い料金や、何ならもう無料でもチラシを分けていただけますかというようなところから話を始めて。なんとかチラシを集めて会員へ届けることさえできれば、きっと会員の登録数も増えて、折り込みたい美術館も増えていくだろうと、スタッフみんなで頑張りました。弊社は主に関東近郊がフィールドなんですけれど、美術版は全国の美術館を対象にしました。美術館に訪れる方は、住んでいる地域の人だけではなく、観光の際に行くことも多いですし、他県へ行くモチベーションが舞台を観る方よりも日常的なんです。 

 

若旦那:21世紀美術館に行って、そのついでに金沢観光もするとか……。熊本とか青森もそうですね、なるほど。

 

永滝:だから美術版に登録されるお客様も「私は関東に住んでるから関東のチラシだけが欲しいです」とはならずに、いろいろな土地での美術展のチラシが欲しいと言っていただける。そういう土壌が美術ファンにはあったのかなと思います。今も、全国の美術館のチラシをお預かりする機会に恵まれています。 

 

若旦那:すごいですね。もしかしたら、全国美術館ネットワークみたいになるんですかね。

 

66139b48-14832004若旦那家康さん

 

永滝:「ここの美術館のチラシが入っているなら、うちも入れます」みたいなこともあったかなと思います。私たちは舞台芸術業界、舞台公演をされる主催者の方たちに寄り添って仕事をしてきたんですけれど、一方で、チラシ単体を見つめるというか、「チラシ」の可能性を直で考えて、何か事業をやろうということはコロナ以前にはなかなかできなかった。コロナ禍はやっぱり辛く厳しかったですが、チラシに向き合う機会を得られたという点では、自分たちの成長に大きく影響したことだったかもしれないと思います。

 

おちらしさんの美術版をやってみて、演劇業界の外からチラシを眺める経験をすることができましたね。普段からお芝居を見慣れてる人には、舞台のチラシってこういうものだと思いますけれど、美術展のチラシを手にしたからこそ舞台チラシの面白さもあらためて気がつくことができた。舞台公演のチラシを作ったことのないデザイナーさんが見ると、舞台のチラシって仰天されるわけですよ。「すごいことやってるんですね」「こんなに難しく面白いことをやってるんですか」と。 

 

若旦那:「作品の中身もわからないのに」的なことですよね?

 

永滝:そうです。中身もわからないところからスタートして、でもすごく多種多様な表現があるじゃないですか。最初は美術版から入ってくださった、デザインを勉強していますとか、美術展が好きですといったおちらしさん会員の人たちにも、「舞台公演のチラシってこんなにクオリティが高くて、面白いものなんですね。勉強になります」とお声をいただく機会が増えて。舞台版、美術版ともにおちらしさん会員の生の声が会社に入ってくるようになったので、それで私たちも勉強させていただきました。

 

若旦那:なんだか不思議ですね。コロナ禍でなかなか会えないのに、生の声が逆に聞こえてきたっていう。

 

永滝:本当にそうです。ありがたかったですし、もっと早くチラシそのものに向き合うような、お仕事の仕方を編み出してもよかったのにと思ったぐらい、「チラシって面白いですね」という声をいただくことができています。

 

もちろん公演や催事があってのチラシですけれど、舞台や美術展が好きでもコロナ禍でなかなか会場に足を運びづらくなったという方たちにとっても、チラシを実際に手元で見られて、五感を刺激される、チラシというのはそういう特殊な媒体で。SNSやホームページといったオンラインの情報とも、ちょっと毛色の違うものなので、そういう意味でも「おちらしさんが欲しいです」と言ってくださる方が予想以上に多かったです。私たちは期間限定でお届けするつもりでしたが、今も続いているのは、やはり会員が増えていったからです。舞台版は今9,000人を超えて、美術版も7,000人を超えました。

 

チラシを扱っている会社ですけども、あらためてチラシを客観的に見て、これをどういうふうに生かせるか、チラシって何なのかといったことを考える機会をコロナ禍でもらいましたね。

 

 

NEXT⇒【3】創客にむけて。WEBで、チラシで、「話題」はどう仕掛けられるか?

 

 

若旦那家康さん(プロフィール)

演劇制作者、俳優。コトリ会議に所属。ストレンジシード静岡プログラムディレクター。大阪市立芸術創造館スタッフ。
神戸大学在学中から小劇場での活動をはじめ、留年中に入団した上海太郎舞踏公司で制作を担当。
以降、地方公演の小劇場を中心に演劇祭などの制作をつとめる。

 

永滝陽子(プロフィール)

1976年生まれ、東京都出身。演劇集団キャラメルボックス製作部を経て2007年にNext(現・株式会社ネビュラエンタープライズ)に入社。2017年専務取締役就任。2020年に社名をネビュラエンタープライズに変更、企業理念「どこまでも、人が集う幸せを求めて。」のもと舞台芸術の振興にむけた事業推進に取り組む。主なサービスに「チラシ折り込み代行サービス」「おちらしさん」「WEB広告代行サービス」「時々海風が吹くスタジオ」の運営等。現在、中学生の姉妹の子育て中。