こちらの記事では、2024年3月18日(月)に扇町ミュージアムキューブにて行われた、ネビュラエンタープライズ専務取締役の永滝陽子とコトリ会議の制作を担当する若旦那家康さんによる、『雨降りのヌエ』公演ゲストトークのアーカイブを、テーマごとにお届けします。
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【1】公演チラシと関わり続ける、ネビュラエンタープライズの20年
【2】コロナ禍でも、おちらしさん会員から聞こえてきた生の声
【3】創客にむけて。WEBで、チラシで、「話題」はどう仕掛けられるか?
【4】美術展のチラシからハッとすること
【5】チラシ談義で「実際、このデザインどう!?」(このページ)
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このトークイベントに観客として参加したネビュラエンタープライズ代表の緑川憲仁による記事は、以下からお読みください!
▶▶あえて公演期間中に、しかも劇場で語る、宣伝のことを。「演劇のチラシと広報」トークイベントからの考察
【第5回】チラシ談義で「実際、このデザインどう!?」
コトリ会議・若旦那家康(以下、若旦那):
ところで、『雨降りのヌエ』のチラシは社内ではどういう評判だったんですか?
『雨降りのヌエ』チラシ表面を見せる、若旦那家康さん
ネビュラエンタープライズ・永滝陽子(以下、永滝):
チラシというものは、良い評価も悪い評価も必ずあるものだと思います。そのうえで、まず良いところとしては、4つ折りのチラシって今あんまりないんですよ。
若旦那:昔は多かったんですか?
永滝:全体の割合から見るとA4ペラほどはもちろん多くはないんですが、でも、何か面白いことをしようって思ったときに、3つ折りや4つ折りでチラシを作られる団体さんは確実にいらっしゃいましたね。今はちょっと減っているのかなという印象があります。そんななか、『雨降りのヌエ』のチラシは物量、情報量もすごく多くて、こんな大きなチラシを作られたこと自体がとてもチャレンジングだと社内でも話題になりました。作るのも大変だろうなということも含めて(笑)。
一方で、裏面に凄まじい膨大な情報を載せていらっしゃるじゃないですか。ダメ出しみたいになっちゃったら嫌なんですが、「どこを見ていいかわからない」という意見は出ました。それは裏返すと「どこに面白さがあるのか知りたい」と思っている人の発言なんですけれど、この中面を見たときに、まずどこを読めばいいのか掴みづらいという話は出ました。
『雨降りのヌエ』チラシ中面では、1か月間行われる公演本編や14種類のイベントをはじめ、毎日のタイムテーブルがぎっしりと掲載されている。
若旦那 :いやまあね、どこを見ても……。またタイトルが単刀直入じゃないので、これはもう作家のせいなんですけど(笑)。WEBじゃないから詳細をクリックできないし、WEBの方のタイムテーブルは、今の時間に何をやっているのかが一目でわかるよう、公演用の特設WEBを作ってくれている劇団員の三ヶ日晩が対応してくれたんですが。
永滝:「特設サイトがすごい、でも、そこに飛びづらい」という意見も出ました。このチラシの中だけですべてを感じてもらうのは難しいと思うんですよ。だからあれだけのWEBサイトを作っていらっしゃって、チラシと連動するのは有効な手だと思いました。チラシから公演期間の全体像を把握して、「どこを見たらいいんだろう?具体的に知りたい!」と思ったときに、それ以上の情報量はサイトに行くとスクロールでカッコよく出てくるじゃないですか。そこでグッとくる部分もあるし、既に公演が済んだスケジュールはグレーになっていて、「今観るならここからだ!」ということがとてもわかりやすい。
若旦那 :公演期間に入って、余裕ができてからやったんです。
永滝:チラシとWEBサイトをどう連動させるかみたいなところで、さらにもうちょっとやりようがあるのかもしれないですね。
若旦那 :そうですね。メインのQRコードはあるんですけどね。タイムテーブルのページにも直で飛べるようになっていて、「これを見るならこの時間」とか、「誰を見るならこの時間」と選べるようになっているんです。でも発見しづらいから、スクショみたいにしてSNSで投稿したりもしたんですよね。
左から、若旦那家康さん、永滝陽子
永滝:ポスターとしても掲示できるという点は、自分で手に取って広げて見たときも、面白いなと思いました。何ならチラシ配布と同時に「ポスターをチラシにして配ってます!」みたいな情報拡散をSNSでしていたら、「ポスターなんだ!見つけたらとりあえず広げてみよう!」と、このチラシへのモチベーションの動機付けになったかもしれないですね。
若旦那 :(客席にむかって)実際にチラシを作ってくれたデザイナーの小泉俊さんがいます。いかがですか?
小泉:いや、文字が多すぎて本当に絶望的になりました(笑)。できれば中面は、文字を少なくしたかったんです。でも情報は入れようということになり、サイズをA2にしても文字が小さすぎるんです。本当はもうA1ぐらいでやりたいんですけど、単純にちょっと大きくなるのでこれが限界ですね。
扇町ミュージアムキューブが開館中の10:00~22:00は、設営準備や片付けまで、観客は劇場で行われているすべてを観ることができる。
小泉:チラシ中面の右下(公演本編以外のイベント)は、今お話を聞いていて、確かにこの情報量が必要ではないかもしれないですね。誰が来るとか、誰が何をやるかということだけを書いて、詳細はWEBサイトに飛ばす方が賢明だったのかもしれないです。だから、その分上のタイムテーブルを広げたら、もうちょっと余裕を持たせられたかな……。横幅は足りないですけど。もうずっとテトリスみたいな作業をしていました。
若旦那:もう1回作ったら?
小泉:やりたくないんですよ(笑)。
会場:(笑い)
永滝:表面のデザイン、公演のメインビジュアルづくりではいかがでしたか?
小泉:打ち合わせで方向性を聞いて、めっちゃ粗いラフを描いて、「こんな感じにしましょう」とお話ししました。コトリ会議の花屋敷鴨さんにイラストを描いていただき、タイトルロゴはインスピレーションと勢いでやって……みたいな感じです。
4つ折りにすると、本編4作のうち1作に焦点が当たる『雨降りのヌエ』チラシ。
かわいらしいタッチだが、どこか怪しく不気味なイラストがコトリ会議のアイコン。
コトリ会議のチラシはもう10年ぐらい作らせてもらっているんですが、イラストがメインになってからが、「コトリ会議だ!」とわかりやすくて良いなと思います。チラシデザインの考え方としては、自分のデザインをいかに殺すか、いかに劇団にフィットさせるかというところが信念にありますね。だから僕がコトリ会議のチラシデザインをしていること自体を、すでに知っている人にはバレていても、知らない方が見たらたぶんバレない。クレジットを見たら、僕の名前が載っていて初めて分かるかと思います。僕は商業ベースでやりたいタイプなので、かなりその部分を重要視していますね。
若旦那:ありがとうございます。
永滝:チラシを手に取る人の10人が10人なりの感じ方がある、それがチラシの面白さなので…会場にいらしてくださった方にも感想をお聞きしたいです。
若旦那:(客席にむかって)学生としてどう思います?
参加者1:私はこの劇場(扇町ミュージアムキューブ)でアルバイトをしているんですけれど、『雨降りのヌエ』のチラシについて事務所では「情報量やばいな」と言われていました。「12時間ずっと劇場におるやん」って。劇場職員より若旦那さんのほうが長くいるんです(笑)。
若旦那:もう既に多分、どの職員よりも僕の方がここに滞在してる(笑)。
参加者1:しかも12時間超えてっていうのが明日ですか?
翌3月19日には、劇場閉館後の22:00からスタートするイベント「ヌ野エ」が予定されていた。
永滝:チラシを読み解いた劇場さんは、引いたってことですね(笑)。
小泉:12時間超えのことも、ちゃんとチラシの白帯に書いているんで。
若旦那:チラシの帯の下までちゃんと伸びてるのよね、タイムテーブルが。
永滝:デザイナーさんがもう絶望的になるぐらいのものを作られたっていう事実を、何らかの形で先行拡散していったら、「コトリ会議のチラシ、ちょっとやばいらしいよ」という話題性が出たかもしれないですね。
若旦那:とりあえずデザイナーが僕に対して怒ってる音声だけを録って、流すとか。
会場:(笑い)
永滝:このチラシは本来、見どころがありすぎるんですよね。だからそれを埋没させない工夫みたいなことが何かあったら、デザイナーさんのご苦労も報われるんじゃないでしょうか…。
若旦那:今、毎晩帰りに自転車で帰るんですけど、Xのスペースでその日のこととか、明日のこととかを喋りながら帰る。誰も聞いていないときもあるんですけど、もう喋り続けるしかないって思って続けています。
永滝:それもいいですね。もしよかったら、「こういうチラシを作ろうと思う」という段階でも、もう作ったあとの話題づくりのアイデア出しで困った時などでも、仕事じゃなくていいので弊社にご連絡いただけたら「このチラシを見て社内のみんなで30分ぐらい話す会をやるよ~!」って言えばうちのスタッフは喜んで集まってくれるので、ワーッと話した音声を送りますよ。壁打ち相手としてでも、それを参考に次の戦略を考えていただけたら、何か活かしていただけるかもしれません。
若旦那:そのチラシの話もぜひ喋った音声を送ってください!
永滝:チラシを客観的にちょっと違う角度から見てみることは、うちのスタッフはみんな好きでやることなので、そういうふうにも弊社を活用していただけたらと思います。
若旦那:せっかく来ていただいたので、そのままおんぶにだっこですね。ご協力いただけることをいっぱい相談します。ネビュラエンタープライズの永滝陽子さんでした。ありがとうございました!
左から、若旦那家康さん、永滝陽子
若旦那家康さん(プロフィール)
演劇制作者、俳優。コトリ会議に所属。ストレンジシード静岡プログラムディレクター。大阪市立芸術創造館スタッフ。
神戸大学在学中から小劇場での活動をはじめ、留年中に入団した上海太郎舞踏公司で制作を担当。
以降、地方公演の小劇場を中心に演劇祭などの制作をつとめる。
永滝陽子(プロフィール)
1976年生まれ、東京都出身。演劇集団キャラメルボックス製作部を経て2007年にNext(現・株式会社ネビュラエンタープライズ)に入社。2017年専務取締役就任。2020年に社名をネビュラエンタープライズに変更、企業理念「どこまでも、人が集う幸せを求めて。」のもと舞台芸術の振興にむけた事業推進に取り組む。主なサービスに「チラシ折り込み代行サービス」「おちらしさん」「WEB広告代行サービス」「時々海風が吹くスタジオ」の運営等。現在、中学生の姉妹の子育て中。